ミエルヒ
どうして息子は自分のことを嫌っているのか考えてみるが、その理由が父親には分からない。父親を嫌う息子が故郷に寄りつこうとしないまま十年以上の時が経った。息子は父親の何を嫌っていたのだろう。息子は故郷の何を嫌っていたのだろう。本当は何者にも成り得ない自分の人生を嫌っていただけなのではないだろうか。結局のところ父親には何も分からない。今日も父親は朝の石狩川に舟を出す。父親は祖父の代からこの辺りに生息するやつめうなぎや川蟹を捕まえて生計を立ててきた漁師だ。そのやつめうなぎも石狩川から姿を消していく。その理由も分からない。分からないことばかりの中でただひとつ、おぼろげに思い当たることは、それでも漁師をやめなかったことが離婚の原因だったのだろうかということくらい。そんな父親が還暦を少し過ぎた今になって再婚相手と出逢った。音沙汰の絶えた息子に見切りをつけるためにも、自分の人生をやり直すためにも、息子の部屋と自分の部屋をつなげて夫婦の寝室をつくろうと思い立ったその夜、突然のごとく息子が帰って来る。息子は困窮していた。嫌っていた父親と嫌っていた故郷を頼るしかないほどに。こうして父と息子の物語は、そこから、もう一度始まる。
