蔵の中
美しく恐ろしい物語。雑誌「象徴」の編集者磯貝をある日少年が訪ねてきた。自分の原稿を預け美少年は蕗谷笛二と名乗った。現行の題名は蔵の中。笛二の姉小雪がひっそり蔵の中で暮らす。中耳炎を患って聾唖者となり、今は胸を病んでおり、笛二が世話をしていた。蔵は頽廃美の空間だった。ある日喀血した小雪の唇を笛二は吸い、血痰を吐きすてた。<人に知られたら転地療養させられる。京都から出たことがないから他の土地で死にたくない>。姉に勧められるまま、笛二は弁天小僧の錦絵になぞらえて美しく化粧をした。折からの雷鳴二人は寝床に倒れこみ貪りあった。地獄に落ちると怯える笛二と対照的に小雪は<どうせ長い命じゃない、したいことをする>。笛二はふと床の遠眼鏡を拾い上げ窓の外を眺めはじめた。断崖の家のお静の暮らしが見えた。磯貝の愛人。二人はそこで愛し合い、言い争っていた。口のきけない小雪の唇を読んでいた笛二には二人のやり取りが読み取れた。磯貝は自らの野心のため妻を手にかけたのか。小雪の病状は重くなる一方で二人はますます妖美な世界へのめり込んでいった。笛二の二の腕に刺青をしようとした刹那小雪はまたしても鮮血を吐いた。疑心暗鬼から磯貝はお静の首に手をかけた。<あたしも殺して>。笛二も愛して止まぬ小雪の首に震えながら手をかけた…。原稿を読み終えた磯貝が編集室を飛び出していった・「蔵の中」彼がそこで見たものは。